海外取材への三脚運搬事情
海外取材。不測の事態に備え準備万端で出発したい一方、荷物はできる限り少なく小さく行きたい。そんな相反する制約の間で、映像作家の皆さんはそれぞれ工夫を凝らしてパッキングをしていると思います。
私もプロフェッショナルビデオグラファーの一人として、取材の度に色々な機材の詰め方を検討してまいりました。特に三脚は長いうえに重たく、担ぐたびになんとか上手い運搬の方法はないだろうかと思って試行錯誤を繰り返しました。
結論として、私は三脚はスーツケースに入れて運搬することにしています。
今回は、その悩ましい三脚の運び方について、、どうして私がスーツケースで三脚を運ぶのかについても、お話をしたいと思います。
旅客機での三脚運搬は悩ましい問題
Photo by Calle Macarone on Unsplash
シネマカメラを使った撮影や、座りでのインタビュー取材をする場合、安定した三脚がなければクオリティの高い撮影は出来なくなるでしょう。またタイムラプス撮影をする際にも、三脚は必須です。
荷物をできるだけ減らしたい海外取材であっても、三脚は持っていくべき優先度の高い重要な機材なのです。
その一方、三脚は長さと重さから、移動時には無視できない重荷となります。
海外取材に行く際には多くの場合、飛行機を使います。飛行機は限られた大きさの機体にできる限りの人を載せる工夫をしていますから、当然、機内持ち込みや預け荷物には大きさ・重さの制限があります。
また、特に近年ではテロ対策などもあり、国際線では規定以上の長いものや鋭いものを客席に持ち込むことは厳しく制限されていますので、出張前にきちんと調査しておく必要があります。
三脚の機内持ち込みは現実的ではない
Photo by Waldemar Brandt on Unsplash
機内持ち込みですが、まずカメラは何よりも優先して手荷物として持ち込む必要があります。次いで、預入れ不可のバッテリー類も持ち込まねばならず、素材バックアップ用のPCも手荷物としたいですし、それ以外に個人の手荷物もあります。
それらを合算すると、持ち込み可能点数や重量が厳しい中で三脚を機内に持ち込む余裕はほとんどない、というのが多くの人の結論だと思います。
それでも、例えば2021年5月時点でJALやトルコ航空では、国際線の機内持ち込み可能サイズが最長辺55㎝となっていますので、縮長が46㎝のAOKA:TKPRO425Cであれば、機内へも持ち込むことはできます。しかし、それよりも大型のTKPRO524Cですと、知らん顔をして機内に持ち込もうとしても、手荷物検査で指摘を受けることになるかも知れません。
(ちなみに私は軽量のカメラを海外で使う際には、機内持ち込みはもちろん、リュックにも入るコンパクトなManfrotto社製 befree liveを愛用しています。)
https://www.manfrotto.com/jp-ja/befree-live-carbon-fibre-tripod-twist-video-head-mvkbfrtc-live/
とは言え、大きなカメラを使う際には、コンパクトで細い三脚だと著しく不安定になりますので、ある程度大きく重たい三脚を持っていかざるを得ません。
システマティック三脚はそれでもかなり縮長が短く設計されていますが、多くのビデオ三脚はもっと長いので、必然的に預入れすることになります。
預入れをする方法は2つ
1つ目:専用ケースに梱包して預ける方法
預入れをする場合、破損を防ぐためしっかりとしたケースに収納する必要があります。特に三脚はアルミが曲がってうまく脚が引き出せなくなったり、カーボンにひびが入っていたりすると機材として致命的であり、厳重な梱包が必須となります。
しかし、その一方で三脚は現地で頻繁に出し入れする機材であり、その度に養生していたりすると時間がかかって仕方ありません。特に海外取材では、なるべく短時間で設置・撤収をしたいですから、簡単に出し入れできてなおかつ頑丈、というケースを探す必要があります。 そういった条件を満たすものとして、例えば、NALPAKというメーカーが出しているハードケースがあります。
https://nalpak.com/TuffpakBroadcast
このケースは日本の映像制作会社でも、多くの会社で導入されており信頼度も高いようです。預入れならば、こういったケースに入れておけば、歪んだ三脚を無理やり立てるといった壊滅的な状態でのロケ開始は、避けられることでしょう。
専用ケースの弱点2つ
ハードケースに入れるというのは万全であるかに見えますが、しかし、それでも懸念事項があります。
とにかく重い
一つ目は重さの問題です。三脚は一般的に頑丈なものほど重くなりますが、三脚ケースも同じで、頑丈ゆえに本体だけでもそれなりの重量があります。ですから三脚を入れるとこれ一つだけでもかなり重くなります。
低予算でのロケの場合、こうした荷物の追加料金(エクセス)が、何回も繰り返すうちにじわじわと痛手となって響いてくるようなこともあるかも知れません。
また1gでも軽くあってほしい現地での移動の際にも、重た過ぎる機材は疲労の大きな原因になります。
ロストバゲージの危険性が上がる
もうひとつは、預けた荷物が目的地に着かずにどこかに行ってしまうロストバゲージの問題です。一旦自分の手から離して預入れする以上、荷物が無くなってしまうリスクは0にはできませんが、それでもなるべくリスクを減らす対策を、私たちも講じる必要があります。
ロストバゲージのリスクを最小にするには、荷物の数を減らすことと、できる限り機内持ち込みをして手元に置いておく、ということになります。しかし、先ほども申し上げた通り三脚の持ち込みは厳しいものがあります。
そうなると前述のハードケースに入れて、という流れになるわけですが、預入れ荷物の個数が増えるほど、何かがロストしてしまう可能性も増えるので、できれば預入れ荷物の個数は少ない方が良いでしょう。
2つ目:分解して荷物スーツケースに入れる
ここで、もう一つのアイディアがあります。
これは以前私が勤務していた映像制作会社で行われていたものですが、三脚をなるべく小さく分解し、荷物スーツケースに他の荷物と混ぜて入れる、という方法です。
三脚から雲台(ビデオヘッド)を外し、それぞれをプチプチ等で養生してスーツケースにまず入れます(もし雲台を外しても入らないようなら、三脚の脚を一段ごとに抜いてしまうと更に縮長は短くできます)。
次に空いた隙間に延長コードやタオル、着替え類を緩衝材代わりに詰め込んで、三脚を動かないように固定してしまいます。この時、各部のネジやヘッド、パン棒も忘れないように注意してください。また三脚運搬用のソフトケースも忘れずに持って行きましょう。
こうすることで、三脚はスーツケースにまとめることができ、預入れ荷物の個数を一つ減らすことができ、三脚の足の間のデッドスペースを有効活用して荷物も詰めることができます。
往復や飛行機移動の際にはこのやり方で梱包し、それ以外の現地移動では同梱したソフトケースに入れ替えて運用すれば、手で持って歩くよりも快適に取材を続けることができるでしょう。
荷物検査で怪しまれるという欠点がある
ただし、これも完全とは言えません。分解したアルミ三脚の足は、X線検査ではっきりとその影が写ります。
満杯のスーツケースの中に長い金属製品が何本も入っている、というのはやはりあまり歓迎されないようで、私は三脚をスーツケースに入れている時にはどこの空港でも大抵、検査で呼び止められてスーツケース開帳を命じられています。
とはいえ、荷物が消え失せたり破損したりするのに比べれば、多少スーツケースのチェックを受けることなど何ともないことで、私はこの方法で現在も大型三脚を運搬しており、三脚が曲がったり破損したことは、今のところ一度もありません。
私がスーツケースで三脚を運ぶ理由
海外取材には、信頼できるハードケースに個別に梱包するかスーツケースに入れる、というところが、現状大型三脚を運搬するベターな方法のようです。
私は前述のとおり、大型三脚を運搬するときは、分解してスーツケースに入れ、自分の着替えやタオルなどを間に詰めて養生しながら運んでいます。
この手法をとっている理由としては、私は少人数でのロケが多いため、機材の個数が多いと運ぶのがとにかく大変だからです。空港から出てタクシーに機材を詰め込むにも、バスに乗るにも、多すぎる機材はその度に紛失や盗難に怯えねばなりません。
また、所持品検査や搭乗手続き、カルネ通関などでも、機材が多ければ多いほど時間と手間がかかります。
撮影のクオリティが上がるにつれ、必然的に機材が多くなるのは避けられません。国内ならば出先でレンタルしたり陸送したりすれば済みますが、海外へ運搬するには限界があります。
重要なのは絶対に必要なものをいかにコンパクトにし、その他のクオリティを上げるための機材をどれだけ持って行けるか、ということです。
三脚をスーツケースに入れる、というただそれだけのことでも荷物を一個減らすことができ、ひいてはそれが映像のクオリティにも還元される、と言ったらカッコつけすぎだと笑われるかもしれませんが、私は割と真剣に、そう思っています。
著者:パートナービデオグラファーZ